前回につづき、近鉄次世代アーバンライナーです。まだまだ退屈な話がつづきますが、おつきあいの程よろしくお願いします。今回は連接車のメリット、デメリットといったところから入ります。60000系「アーバンライナー・アドバンス」では、床下機器の艤装スペースを増やす手段として連接構造を用いたわけですが、必要な床下機器の数、ボリュームが少なければボギー車でも空調装置を床下に収められるわけで(例:国鉄381系・JR四国8000系・JR東日本E259系など)、連接車とボギー車とを比較してのメリットは、ほとんどないといっていいかもしれません。しいて挙げるなら、連接車では台車中心から連結面よりのオーバーハング部がないので、ボギー車の車端部のような乗り心地の悪化が避けられることぐらいでしょうか。
それに対して、デメリットといえば、1車体ずつ簡単に切り離すことができないのでメンテナンスに手間がかかる、というのが、まずくるでしょうか。これは、現在の近鉄では20.5m車6両固定編成(近鉄21020系)を切り離さずにピットで検査できる設備があるということ。また、全般検査、重要部検査レベルでは、仮台車をかまして1車体ずつ切り離すという作業が必要になってきますが、以下で引用した小田急の実務者の証言により、思いのほか障害にはならないものと考えます。
引用文中の()内は引用者が補足。「連節」は原文ママ
1車体の長さがボギー車より短いことから、号車数、座席配置が従来車と一致せず、座席予約システムが面倒くさいことになる、といったことも思いあたるでしょうか。座席予約システムに関しては、結局対応できずに早期廃車の原因の一つとなった近鉄10000系「ビスタカーI世」のイメージが、ややカブりますが、今回の60000系は、現行「アーバンライナー」近鉄21000・21020系の代替として、必要編成数をそろえた上で、基本的には名阪甲特急専用で使うという設定なので問題は少ないと考えます。間合い運用や異常時の対応は、とりあえず、ここでは突きつめないこととします。
次にあげるデメリットが一番の難題で、今回の主題になりますが、軸重の増加です。前回提示したように、60000系の基本編成(8車体9台車)は編成長でいうと20.5mボギー車6両相当なので、ボギー車では12個の台車で支えている重量を9つの台車で支えることになります。単純計算でいえば軸重はボギー車の1.33倍になるということです。ベースとした近鉄21020系の最大軸重がモ21220形・モ21320形・モ21520形の11.5tですから、1.33倍すると15.3tにもなります。近鉄の現有車両の中で軸重が一番重いのが、近鉄50000系「しまかぜ」のモ50200形・モ50500形で12.25tですから、この時点で非常にまずいことが直感的にわかると思います。
軸重が増えると何が悪いのかというと、線路の傷みが加速度的にひどくなるからです。「軌道破壊は軸重の4乗に比例する」という説が有力なので、これに当てはめると、軸重15.3tでは近鉄21020系の最大軸重11.5tの3.16倍も線路を破壊するということになってしまいます。線路保守に現在より何倍も手間とコストをかけることができるというなら話は別ですが、それは現実的ではないでしょう。
とまあ、エラいことになって来ましたが、上の計算はあくまで単純計算で出した「1.33倍」という数字に基づいているわけで、もう少し実際的な数字を計算した上で60000系の軸重を再検討していきたいと思います。次回もまだ軸重の話がつづきます。
本文中で記述した、近鉄の実車の最大軸重は、空車重量を単純に4で割った数字なので、実際の数値とは多少異なる可能性があります。また積車重量に関しては考慮しておりません。
- 近鉄次世代アーバンライナー1(はじめに)
近鉄次世代アーバンライナー2- 近鉄次世代アーバンライナー2.5(編成構成・床下機器)
- 近鉄次世代アーバンライナー4(軸重2)
- 近鉄次世代アーバンライナー5(軸重3)
- 実在の鉄道事業者様、関連企業様とは一切関係ございません。ただの妄想です。
- KINTETSU 21020 アーバンライナー・ネクスト(近畿日本鉄道公式カタログ)
- 鉄道ピクトリアル2005年10月臨時増刊号(第767号)
- 鉄道ピクトリアル2007年5月号(第789号)
- 鉄道ファン2013年4月号(第624号)
- Wikipedia「近鉄10000系電車」
- Wikipedia「連接台車」
- Wikipedia「近鉄50000系電車」
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